パリだけではないイスラム国による国際テロは、新しい時代に突入した

パリテロ

今回パリで3箇所、8人の自爆テロリストにより128人の市民が無差別に銃殺された事件は、イスラム国がしかけた全く新しいタイプのテロリズムの幕開けとなってしまいました。国際社会に与えた影響の大きさはご存知の通りです。テロとは、相手をテリブル(恐怖)に落とし入れることを目的としてますから、対抗策としては、テロを恐れないこと以外にありません。シリアのイスラム国の拠点をどれだけ徹底的に空爆しても、バグダディやその他幹部を逮捕死刑にしても、この新しいタイプのテロは決して無くなることはないでしょう。なぜなら「テロリスト」という人種がいるのではなく、「テロリズム」は思想だからです。絶滅させても、また自然と発生します。空爆ではない根本的な解決をしないかぎり永遠に続きます。トリコロールでお祭り騒ぎをしている場合じゃないのです。

今回のテロがなぜ全く新しいタイプのテロかというと3つの大きな特徴があります。

  • ホーム・グローン、すなわちフランスの自国内で生まれた、自国育ちの若者がテロリストと化したものであること。
  • ユーロ圏を股にかけ、極めて緻密で冷酷な計画のもとに実行されていること。
  • ロシア機の航空爆破テロ、レバノンでのパリ並の規模のテロ(なぜかこちらはあまり報道されない)と相次いでいること。

これらのことから分かることは、これからのテロは、911とは全く異なる、分散同時自己発生型のテロであるということです。911は集中管理動員型のテロでした。ビンラディンが中心となってアルカイダをまとめ上げ、そこからテロリストを育て上げて、米国に潜入させる必要がありました。イスラム国による新しい分散同時自己発生型のテロは、攻撃対象国にテロ要員を送り込む必要もありません。全世界各国で、ごく普通の若者が思想的影響を受け、感化されて次々にテロリストに生まれ変わるのです。まるでオセロゲームのように、です。イスラム国は今までに無かったタイプの国際テロ組織になるにも書きましたが、極端な話、インターネットで勧誘の動画を流し、全世界に住む抑圧されたイスラム教徒の二世、三世の世代を洗脳するだけで、実行に至ることができるのです。

テロ行為は、今や戦争です。でもそれを空爆などの通常戦で対応するのは、間違っていると私は思います。空爆などというのは、極めて旧式の戦法です。アメリカ軍はベトナム戦争の時、通常戦力では優っていたにも関わらず、ゲリラ戦術という新種の抵抗力のせいで敗北しました。こんどはゲリラ戦術ではなくテロ戦術です。それに対してまた同じ過ちを繰り返すのでしょうか。自ら失敗したと認めているイラク侵攻が、このバケモノのようなイスラム国を産んだことを忘れたのでしょうか。空爆で得られるメリットは、軍産共同体としての弾薬の消費利益だけです。デメリットは多くの民間人を巻き添えとして殺害し、イスラム国の支持者を増やすというところにあります。イスラム国の士気も高まるでしょう。

新しい時代に突入した国際テロに対抗するには、私たちも新しい視野に立って行動する必要があります。空爆などという旧式の戦術は愚の骨頂だと私は思います。多くのイスラム教徒は平和を愛し、寛容の精神で異教徒と共存しています。イスラム国をイスラム教徒の目線で分析してみたにも書きましたが、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」で、まずはイスラム教への理解が必要でしょう。この戦いが、イスラム教徒が現代の十字軍と戦うハルマゲドンに発展しないようにすべきです。それにはまず、シリア、イラクなどに住む過激派ではない一般のイスラム教徒を、一人も殺さないという硬く勇気ある決心をすることです。その上で一神教同士で、一つのテーブルに着く方法を模索せねばなりません。

もはや日本も、イスラム国からは敵国と見なされています。解決へは直接関与できません。一神教の信者たちの、達成困難な目標に向かっての努力に期待するしかないのです。一人ひとりが「対テロ報復攻撃」といった幼稚な発想から脱出してくれることを、祈るばかりです。そうしなければ多くのテロの犠牲者への、ほんとうの意味での追悼はできないと思います。

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コメント

  1. 桝本隆 より:

    フランスのオランド大統領が「戦争状態」という言葉を使ったのが気になります。
    「戦争」なら「殺し殺される関係」を受忍するということになるからです。戦略的な破壊工作や通信網の混乱を狙うサイバー攻撃も敵味方平等に容認されます。
    やはりテロはどんなにひどいものでも「犯罪」として警察力が主体となり、軍事法廷でなく、刑事法廷で刑法によって裁判を受ける方がよいように思います。
    それが法的秩序です。
    戦争状態となって「非常事態」が継続してしまうと、法秩序の空白またはカオス状態が出現する可能性すらあります。
    せいぜい、警察による武器使用要件の緩和とか、捜査権限の拡大に具体的かつ限定的に対テロ「非常事態」が位置づけられることを望みます。
    「戦争状態」と本物の「戦争」は連続しています。今は非常に危険です。

    • ysugie より:

      本来の考え方で言うと、桝本さんのおっしゃるとおりですね。そもそもイスラム国は国じゃないし、相手が国じゃないのに戦争という言葉を使うのも、おかしな話です。大規模に軍隊を出動させるという意味で使われたのでしょう。私が心配するのは、従来からある戦争の定義を始め、国際安全保障の概念を根底から覆す、恐ろしい時代がやってくる事です。そうなると我々も、戦争の定義を見なおさなくてはならないかも知れません。

  2. 桝本隆 より:

    私の想像の中にある「戦争」の危険は、難民に紛れたテロリストが、ギリシャで大規模な同時テロを起こすことです。
    ギリシャは短期的には対処可能ですが、継続して起きた場合は立ち往生となりましょう。テロで混乱したギリシャは難民を閉め出すどころか、混乱に乗じて不法入国する難民にお手上げ状態となり、財政と治安の両方で破綻します。
    このギリシャの国家として機能喪失は、ドミノ倒しのようにEUに相互不信と自国防衛意識に駆られた狂乱を呼ぶ可能性があります。
    するとますますテロリストに好都合なカオス状況が生じます。地中海を囲む広大な地域に中東同様のもはやテロと言えない戦乱が拡大するというのが最悪のシナリオです。

  3. 坂井万利代 より:

    私も今回のパリでのテロ、そして連合国+ロシア、近隣諸国によるシリアへの空爆は非常に悲しい思いです。

    EUの集団的自衛権が認められ、国連でもフランスは大儀の元で声明を発表し、どこまでフランス至上主義なのか。

    ただ交渉を第一としていたオバマが、議会の意見も大きいと思われますが空爆にふみきったことで、ISが話が通じる相手ではない、連合国にとって脅威なのだと考えています。

    ISが「kamikaze」と名乗り、神風特攻隊を賞賛しているようですが、日本の歴史的汚点を美談としてもちあげるのも不快に感じています。
    連合国にとって空爆より、特攻隊のほうが人権侵害であり脅威そのものだった、と特攻隊関連の本に書いてあります。
    大国の大儀の元では空爆は平和的手段なようで、本当に悲しいことです。

    私は7時のNHKのニュースで、日本がテロにさらされる危険がある、と聞き、それは確率としてどれぐらいなのか(面倒くさい質問で申し訳ありません)
    知りたいのです。100分の1、私の考えでは1万の1ぐらいではないか、と考えています。

    日本の本土でISの資金調達が可能なのか、コストがかかりすぎる上に東アジアはEUから見たら僻地でしょう。
    マスコミがテロにさらされる可能性があると恐怖を植えつけることにより、自民党の憲法草案9章、緊急非常事態が肯定されないか、と心配しています。

    • ysugie より:

      ISは機関誌の中で、「これまで日本は、ISの標的としての優先度は高くなかった。しかし、連合国を支援するという安倍晋三の無分別な公約によって、安倍晋三の愚かさによって、たとえどこにいようとも今はすべての日本人とその利益が、IS戦闘員らの標的となった」と述べています。しかし私は日本国内でISによるテロが起きる可能性は、極めて低いと思っています。それはテロを仕掛ける優先順位の高い国が、他にたくさんあるからです。アメリカの空爆に後方支援など始めたら、話は別ですが。

  4. 坂井万利代 より:

    杉江さん、お仕事で大変お忙しい中お返事ありがとうございました。
    韓国、日本も後方支援や人道支援という形で関わっているので、全く無関係で
    ないことは承知しています。

    EUが発足された歴史として、ナチスや第一世界大戦のドイツをフランスが許し、
    戦争が起こらないよう、通貨も統一し、その知恵は今どこに行くのか、気が遠くなりそうです。

    ISは思想としては、ナチスや戦前の日本の全体主義に近いのではないでしょうか。
    組織形態は世界各国にネットワークがあり、今までと違ったテロの形態であると
    考えています。

    日本が空爆に関わることですが、現在はギリシャよりもひどい空前の大赤字なので
    予算的には不可能かと思われます。
    しかしアベノミクスの最初の一本の矢である、禁じ手の日銀の国債引受け、
    事実上の債務放棄、国債の塩漬けにより、日銀が国債を約300兆円回収
    したことなります。
    徳川徳政令や、高橋是清財政では債務放棄は行われたいたようですが…。

    これをいつまで続けるのか、日銀が国債を回収し続けている限り、予算は無限大…。
    誰一人やめ時が、わからないというのがクラっとしそうです。
    ニュースを楽しむ杉江さんの書き方によると、ジャイアンの元で日本はスネオになると…。
    世論調査ぐらいしてほしい、と非力ながら考えています。

  5. 坂井万利代 より:

    すみません、日銀の国債の債務放棄について
    わかりにくいかも知れないので補足します。

    日銀は都銀、地銀と違い、貨幣通貨発行局です。
    お金がいくらでも刷れる銀行です。

    アベノミクスの最初の一本の矢である(政府の借金である)
    国債を1年で80兆円買うとは、日銀が80兆円分お金を刷ります。

    日銀が政府に借金を返せというかというと、全くありません。
    日銀はお金が刷れるので予算が無限にあります。
    国債の少ない利率で儲けもできます。
    ですので、日銀が国債を買うのは、事実上の債務放棄(政府に借金取り消し)
    になります。約300兆円分回収しました。

    ギリシャも国債の引受けをIMFにしてほしかったのですが、ユーロで
    通貨が統一されていて、結果的に財政破綻という結末になりました。

    日本は今空前の大赤字なのに、税金を払わなくてもよい「無税国家」になっています。
    国債は後の世代の借金で増税ですが、日銀が国債を買い債務放棄することにより
    税金を納めなくてよい国になっています。
    アベノミクスは今までと180度違う、非伝統的金融政策です。

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